●解説・概要
『浮世物語』は日本という国を表現する夢物語である。人間と自然の力によって災害をこおむった国。苦しみと運命に翻弄させられた国。映画の冒頭は謎めいた雰囲気で始まる。三つの時代が交差していく。一つは1945年の広島、また一つは室町時代、そして平安時代。インフェルノ等の最新デジタル・コンピュータを駆使して、現実の世界と幻想の世界とを入り交えながら、ゆっくりと観客を独自のインフォグラフィックな世界に引き込んでいく。
主人公の子供の目を通して見つめられる出来事、そしてそれを大人になった本人が回想して行く。作品の中では繊細な伝統芸術と絶えず変化していく残酷な部分とが共存し、やさしく繊細でありながら同時に凶暴な世界を描く。
この作品の叙情的スタイルは本来のテーマである残酷さから離れ、詩的にファンタジーに描いていく。例えば戦争中、子供たちは炎や爆弾を彼等の想像の中で何度となく、まるで花火のように捉えている。この作品は実際におこった生々しい残虐な場面や残忍な場面などを決して強調することなく、寓話的に描いていく。また、広島で起こった真実の中に、日本の童話や伝統の空想的な面を織り交ぜながら日本への見解をより広く、自由なものにしていく。
そして後半は前半の部分のまとめとなる。すべての登場人物が原爆直後に同じ場所にそして同じ時間に、すなわち1945年の広島の海軍基地に集まる。
作品の大部分は台詞がほとんどなく、ナレーションによるいくつかの断片的な回想で語られる。映像上の登場人物たち(ひろゆき、過去の女、侍)は一切はなすことはなく、まるで浄瑠璃人形のようである。彼等の唯一の表現方法は顔の表情と動きである。そして人間の沈黙、内部の苦しみを表現する舞踏はこの作品の中で何度も使われ、被爆者のイメージを強く残していく。
暴力的な場面と苦しみの場面は舞踏で表現することにより詩的に描かれると同時に、この作品に寓話的に要素を取り入れていくだろう。インフォグラフィックはまさに夢と比喩表現である。過去の探究(昔話の伝統的映像)、そして原爆が落とされた現在を現実から常に少し距離をおいて描いていく。
『浮世物語』は構想・制作期間5年。編集に1年半(のべ2000時間)を要した、コンピュータ・グラフィックスとは異なったインフォグラフィックな全く新しい映像作品である。
ヒロシマ
1945年8月6日朝...まばゆい光が浮世いっぱいにひろがった
男は思い出す…
衝撃
突き刺す風
痛みの中に引き裂かれる体
現在の中の過去の夢
過去の中の未来の幻影
子供だったころ。以前に…
あの光が落ちる前に
世界が混乱する前に…
●登場人物
◆ひろゆき
10才の無邪気な男の子で終戦時の広島に住む。私たちは、広島で起こった出来事を夢と現実の間をさまようこの少年の目を通して見る。そして彼が大人になった時に子供時代の思い出を断片的に回想していく。
◆舞踏
この日本の独特の形式を持つ、舞い踊る現代ダンスは、当時広島で起こった出来事を忠実に表現する。その動きの中には、人間の苦しみ、犠牲、また原爆に対する憎しみを写出していく。又このダンスは、単に苦しみにあえぐ身体だけではなく、その内面にある心の静寂、悲痛をも表現する。
舞踏を通し、広島の被爆者の苦しみを隠喩的に描くことで、その情景を生々しい現実世界から幻想的な詩の世界へと高める。
◆過去の女
この登場人物は平安時代の物語の女主人公を想像させる。この女性は絵巻物の中に描かれていく。彼女の着物は彼女が良家出身であることを想像させ、また江戸時代から伝えられている伝説の中の登場人物、雪女を思わせる。雪女は妻を亡くした男の家に夜な夜な通う女の幽霊で、冬を象徴する人物である。その他の場面にも『竹取物語』や『雨若日子』などの日本の代表的な物語の要素が随所に表現される。この女の青白い顔は能面のように無表情で、反対にその動きは歌舞伎を思わせる。
◆侍
この登場人物は室町時代、特に1467年の“応仁の乱”からヒントを得ている。
その場面は激しく華やかなアクションシーンを用いている。
|